2020/10/26
【インタビュー】東京高円寺『コクテイル書房』まちづくりと古本・古書買取の未来について

東京で古本買取・販売をしているお店を巡り、これまでのこと、いまのこと、そしてこれからのことを、バリューブックス寄付担当・難しい本マニアの「廣瀬聡」がインタビューしていきます。今回は東京都杉並区高円寺にある『コクテイル書房』の狩野さんにお話をお伺いしました。
目次
インタビューを終えて(廣瀬)
狩野さんは想像していた通りのスーパーマンであり、想像通り仕事を楽しんでいる人であった。 古本の買取と販売をしながら、夜は居酒屋、そしてレトルトカレーの販売、さらにはカレーの缶詰工場を店内に増設し、2021年から製造販売をする予定とのこと。 ひとつひとつスキルと実績を積み重ねながら活動の幅を広げている狩野さんとお話しているうちに、なんだか「自分もやろう、がんばろう」と思えてくる。 行動し続ける勇気と、エネルギーをもらったインタビューだった。 ***** ここからインタビュー本編です。古本買取の『コクテイル書房』

居酒屋の『コクテイル書房』

食品製造販売の『コクテイル書房』
そうなんですよ。 ━━夏目漱石のカレーをレトルト販売しているというのは聞いていましたが...なんかスケールが違う話になってきた 今年の2月に文学カレー「漱石」っていうのをレトルトにして発売したんですよ。それで、蔦屋家電で「本屋博」っていうイベントがあって、そこで先行発売をして、で、レトルトでつくったんですけど、あれを工場で頼んでつくってもらうんですけど。 味を合わせるんですけどウチの味ではないんですよ。だったらやっぱり自分のところでつくったカレーをちゃんとレトルトにして売り出すのがやっぱりいいんじゃないってことで。 こういう感じで店の奥が...

古本買取・販売の仕事について

東京都杉並区高円寺の『コクテイル書房』ができるまで

中央線沿線以外のまちのおもしろさ
━━中央線沿線へのこだわりはあったんですか ぼくもともと上京して最初に住んだのが東高円寺ってところで、丸の内線なんですけど、それがなんか、たぶん、ずっと影響しているんじゃないですかね。 ━━どちらから出てこられたんですか? ぼくは福島県の郡山市です。 ━━中央線沿線は大学もたくさんあるし、他の県からもサブカル好きが集まる地域ということで、本を売る人、買う人が集まるから、本屋の経営のことを考えると中央線沿線がいいっていう話を先日聞きました。ぼくもそうだなと 廣瀬さんそうだったんですか? ━━ぼくは愛媛から上京してきて、新小岩に最初下宿して、予備校がお茶の水にあったんで通っていたんですが、駅おりてえ?お茶の水なのに古書店がいっぱいあると思ったら、まさかこれがウワサの神田の!と思ってびっくりした記憶があります。 ぼくは最近、あんまり中央線に対するこだわりはなくなってきていて。下北とか行って、いままでぜんぜんおもしろいとはおもわなかったんですけど、あらためておもしろいなぁと。 ディープだし、まちも広いし、古いものが好きという感じ。 最近の20代の若い人たちって結構古いモノが好きっていうか、下北なんかも古着のまちっていわれているじゃないですか。高円寺も古着のまちなんですけど、そういう意味で両方のまちが、比較的若い世代で古いモノ好きな人が集まっているという共通のところがあったとしても、下北の方がはるかにディープな感じがして、さらになんかお金も回っているというふうなイメージがあって。なんかおもしろいなぁと。中央線以外のまちのおもしろさも感じたりしています。 それこそ地方に行くって言うのもおもしろかったりするんじゃないかなとも思う。 ━━もしかしたら(地方に)引っ越すって可能性もあったりしますか? いやでも缶詰工場はじめちゃうから...(笑) でも、どっかとここっていう、2拠点での生活は正直あこがれますよね。コクテイルの「まちづくり」

これからやりたいこと
━━本屋と居酒屋とこれから缶詰工場をはじめられる中で、これまでやってきていま感じている課題感とか、こういうことをしていきたいとか、理想とかはありますか? うちの店のモットーというのは、読むことと食べることは似ていて、料理を作るということと書くということは似ている。文字と料理の融合というものをこの空間で実現できたらいいなと思っていて。 それは何なのかなって考えると、本って心の栄養だったりするじゃないですか。食べるっていうのは体を作る素を作る。その二つがあってはじめて人は健康になれてその先に幸せみたいのがあるのかなと漠然と考えていたんです。 レトルト作ってその自分ところで作ろうと思ったきっかけもその作るっていうことが面白いなと。本屋って特に古本屋って、きたものを売る・並べてる。まあそれはそのいろんな面白さがあるんですけど。やっぱ作るって言うのは独特の面白さがあるていうのが今年のレトルトを作った時に例えばパッケージとかやり取りとかでも結構なものがあるし味を食品メーカーとすり合わせるにしても、何度も何度もやる。 物を作るっていうのはこんな大変なことだけど、こんなに面白いんだていうのをそこで知って。だったら自分ところで作りたいっていうのがあって。 多分この次やるのは本を作るんじゃないかな。出版じゃなくて活版印刷とかで刷って、ていうのは多分やるんだろうなと。この流れでいくと。 ━━そこまでいくんですね この缶詰工場を作る時に活版印刷機を買おうと思ってるんですよ。それはだからパッケージ用の袋を活版で刷ろうと。だから、次の「出版」に至るちょっとこう地ならし的なこともここでやっていけたらなと。 課題と言うかやりたいことの話になりましたけど。 ━━今、食と本が融合しようとしているところなんですね。「効率が良い」という方には向かってないですね。大量生産ではない方へ そうですね。何か大きくしてそれを制御できる器量が自分には本当にないんで。多分それ違うじゃないですか。バリューブックスっていうのを経営するのと、ここの本屋って言うのは全然違う。とてもじゃないけどバリューブックスを経営するような能力は僕にはないから。 そうするとこのちっちゃい小舟の中でどうやっていくかっていう話なんで。そういう意味ではある程度自由なんですよね。
古本買取の「これから」について
これから大変だと思います。会社(バリューブックス)の先行きとして見ててどうなのかなって思っているのは、僕は大学の先生から本を買って大学関係者に売るっていうことを一番太いパイプなんですね。それが多分この先、急速になくなるだろうなと思っていて。 学術書が電子書籍になるだろうなと思っているんですよ。人類の共通の夢はいろんな人間の知識がそこにアクセスして絡まりあって何か新しいものを作り出すこと。だとしたら、そのための図書館だったりとかするじゃないですか。そうすると学術書は電子にしてあっという間に多言語に翻訳されるじゃないですか。そうやって誰でもアクセスできるっていうもののほうがたぶん有用性があるんですよ。だからああいうカタい本(学術書とか)がまず電子書籍になるんじゃないのかなって、今後。 と思っていてそうすると結構バリューさんもその辺が売り上げの大きいところをしめているから、どうなのかなって。 ━━遠くない未来なのかなと思ってはいて、そう言いつつもしばらくはなくならないだろうなっていう どれくらいなくならないと思いますか。 ━━ぼくは紙の本の方が読みたいですね。気になったところをパッて見れるし。本棚に出しといてさしとくだけで安心するところもあったり。自分の知識がそこにある安心感というか。でも今の10代20代っていうのは電子ですよね。もう本を読まなくなってきてるって聞くし。 そう考えるとまあ10年ぐらいで変わるんじゃないかと。 ぼくはそう言いつつ、紙の本は絶対なくならないと持っていて。荻原魚雷さんと話をした時に、たぶん魚雷さんの本が電子でも出しているらしいんですけど、でも電子がメインになったとしても、魚雷さんは自分の本を記念として400部とか500部とか限定の紙版として出す、それぐらいの紙の本っていうのは出続けるんじゃないかなと。それはすごく高くなったりとかするのかもしれないけど。そういう意味で大きなスケールで紙の本の商売をやっていける時代っていうのはそう長くないのかなと。 ━━大量出版っていうワードってなくなるなっていうか、もうないって思っていて、狩野さんが言ってたように学術書も電子が便利だよねていう話だと そっからなくなると思っています。予測ですけど。 ━━筑波(大学)の落合陽一さんとかああいう人がたくさん本持ってるっていうイメージないもんね。パソコン一台もってやってる感じだよね ━━CD とかもそうですもんね。よっぽどファンのアーティストの CDで家に飾っときたいっていうものしかたぶん買ってなくて、他はスマホで聴くっていうスタイル 『円盤』っていうのが高円寺の高架のそばにあって、そこが音楽関係のいろんなものを扱っている人で、長野に移住したんですけれども。(余談ですが)僕の周りの気の利いた人はみんな長野に行くんですよ。 それで聞くのは CD が売れなくなって、なんでかって言うとCDはデータだから。そうするとアナログの音源テープとかレコードがものすごく売れているていう話を聞いて。音の質としてダウンロードしたりするのとCDとは変わらないんだけど、アナログの音っていうのは独特のなんかいわゆるモノ感があるって言ってましたね。 ━━レコードだとオーケストラが立ち上がるっていう謎の話を日経新聞で読んだことがあって ━━レコードはいま生産されていないですもんね 生産されてるんですよそれが。レコードは今生産されているんです。 ━━そうなんですね カセットもそうなんですよ。 ━━あ、盛岡の方のイベントでカセット売ってますっていう人の話聞いたことある。やっぱり大量ではない方に ━━バリューブックスの方向性は多様化への効率になるんじゃないかな。経営は単品量産の方がいいんだけど、多様化にいくんじゃないか 多様化の商品は何なんですか? ━━まずは本でしょう (ここでお店の開店時間となり、インタビューは終了しました)あらためて、古本買取について思うこと(廣瀬)
物騒な例えだがプロのテロリストには長距離狙撃タイプと近接戦闘タイプがある。この二つの能力は完全な二項対立関係にあり兼ね備える人間はゴルゴ13しかいない。(若い方はご存じないかもしれない…) ところがコクテイルの狩野さんはゴルゴ13だった。いや、その上に缶詰工場が加わると超人をさらに超えた存在となる。(上に掲載された缶詰製造機が奥に見える古本屋&飲み屋のイラストのシュールなこと…) 頭に詰め込んだ言葉と理屈に縛られた自分は本当にくだらないヤツだと自覚した1日だった。古本買取という仕事は小さな人間には狭くて窮屈な世界だけれども、大きな人間には広やかで自由な世界じゃないかと思った次第。(いや、大きな人にも苦労は絶えないのだけれど) 狩野さん、漱石カレーも太宰カレーも素晴らしく美味しかったです。